7月3日(水)富士山麓
富士山の登山シーズンが来週からすべてのルートで始まり、マイカー規制もかかります。その前の静かな時です。
このところ毎週のように、山麓に通っています。広大で豊かな裾野の自然は、とてもとても見尽くすことなどできそうもなく、歩ける限り楽しめそうです。
まずは第一チェック。
先週訪れたイチヨウランはイチヨウラン属。こちらはコイチヨウラン属。
名前どおり、葉は一枚だけですが、イチヨウランに比べて小さく、林床の苔やイトイの中に紛れるように花柄を伸ばして花を付けています。
今年も無事会えてよかった。
通りかかった女性に、スズムシソウの場所を教えてもらいました。私の方はハコネランの場所をお教えしました。
苔やシダ類やら、ギボウシやらマツノハマンネングサやら、その幹にたくさんまとったカエデの古木。苔に紛れるように確かにスズムシソウが数株、確認できます。スズムシソウは地上性なので、ブナの古木に着いた苔に着生することが多いと聞くフガクスズムシソウだと思われます。
写真を撮っているご夫婦がいらして、頭上3m、これでも近い方だと伺いました。
地上に育つスズムシソウは、その美しい姿から盗掘されて、ほとんど見ることができなくなっていますが、木に登ることを習得したフガクスズムシソウは、人間の手から逃れて何とか生き延びているようです。
見ることができて嬉しい一方で、深くため息が出ます。
一番近いところを選んで、ガラン沢に抜けてみました。
御殿庭で須山口登山道に合流しますが、こちらはいっそう静かです。
キノコたちもボツボツ姿を見せています。
今年初お目見えのカワリハツ。美味しいキノコです。
絵本に載せたいようなカッコいいイロガワリ。思わず足を止めました。
カサ裏は黄色、触るとすぐに青変します。ヨーロッパでは食べるようですが、日本と同じ種類かどうか疑問です。毒キノコとしている図鑑がある一方で、可食とする図鑑もあります。
イロガワリの仲間には猛毒のものもありますし、あまり食欲をそそられる色ではないので、私は手出ししません。
ヌメリスギタケかヌメリスギタケモドキか。
ブナの倒木から出ていたこと、ササクレの感じがおとなしく、整った感じ。軸のヌメリは両者に違いがありますが、雨が降ったりしたら微妙になります。
私の判断ではヌメリスギタケ。まあ、間違えてもどちらも食べられるので問題はありません。
花期ではない時の姿を意外に知らないもの、そんな2種。
ハルリンドウ、標高から見れば高山型変種のタテヤマリンドウかもしれません。あるいはミヤマリンドウか。
種子を付け始めた時で、花からはなかなか想像しづらい姿です。来年花を確認するとしましょう。
ギンリョウソウはよく見かける花ですが、種子がふくらみ始めた頃の姿は、知らない人が多いかもしれません。正面から見れば、鬼太郎の目玉おやじのようでユーモラスです。
今日は道すがら4組の方にお会いしました。すべて植物観察の方たち。見に来た花もほぼ同じ。
初めてすれ違う人なのに、パッと見でお互い植物観察だと匂う。どちらからともなく言葉を交わして、情報交換を始めます。
類友ということですね。おもしろい。
6月25日(火)植物観察
今年も出会えて、嬉しいイチヨウランです。
強風に耐えて地を這うカラマツの枝に守られるように、ひっそりと、細長い首を凛と伸ばして、何とも美しい。
6月の末あたりから8月にかけては、自生ランがたくさん咲き始めます。
たくさんと言っても、日本のランは洋ランのような華やかさはなく、密やかで、小ぶりで、シックな色合いのランが多く、自然の中に溶け込むように咲きます。
なおのこと、見つけた時の嬉しさは格別です。
ギンランかササバギンランか?
ギンランに比べると少し大型のササバギンラン、距の長さはササバギンランの方が短いと言いますが、二つ並んでいれば、比べようもあるものの、なかなか難しい。短い気はします。苞葉の長さはササバギンランかな・・・
80%でササバギンラン、というのが私なりの結論です。植物観察は、そっくりさん同士の同定作業が面白いのです。
近くにコフタバランも見つけましたが、あまりの小ささ。大ピンボケですが、近くにはイチヨウランとイチヤクソウの葉が写り込んでいます。
ミヤマフタバランもまた近くにいて、厳しい自然に逞しく生きている植物たちがうち揃っていました。
お天気も良かったので、二ツ塚まで行ってみることにしました。私以外は、下塚からの上塚、宝永火口、富士山頂の3段重ねの景色は初めてとのこと。富士山の雄大さに見惚れる場所です。
山頂にかさ雲がかかり始めています。下り坂のようです。
6月20日(木)八丁池
梅雨入り前と言うのに、18日には網代で観測史上最大の雨量を記録したそうです。降り続く強い雨、わが家は山の上なので、浸水・洪水の心配はないものの、土砂崩れは十分あり得ます。
東海岸の国道や伊豆スカイラインも規制、通行止めとなっていました。
年々、自然の苛烈さがはっきりと目に見えるようになり、「人間がいなくなれば地球は救われる」といった極論のような言葉にさえ、そうかも・・・と思ってしまうことは一度、二度ではなくなりました。
水生地の駐車場に着いたら、見慣れた友人の車が先着していました。タフな人のこと、多分、トレーニングに万二郎岳辺りまで行ったのでしょう。
私はと言えば、植物観察とキノコ偵察で、こちらに引っかかり、あちらに引っかかりしながら八丁池までゆるり周回です。
水の流れを見たことは1,2度しかない、1000m辺りの源頭部にもかなりの水が流れていて、今回の雨の激しさが分かります。
山から水が下りるまでには時間差があり、登山口が川のようになっていたということは3~4日後だったということもありました。
低山と言えども、侮ってはいけません。
そこここにヒコサンヒメシャラの花が落ちています。ヒメシャラより一足先に咲き始めます。
5枚の花弁の1枚に、ぽぉっと紅が射すのが何とも趣きがあり、つい手に取ってしまいます
エゾハルゼミの鳴き声が盛んで、アオバトののんびりした鳴き声も八丁池によく似あいます。
静かな水面、伊豆の瞳です。
ツチアケビが唐突に、ニョキっと花柄を伸ばしていました。60㎝程もあったでしょうか。蕾をたくさんつけていますが、咲くのはもうしばらく先です。久しぶりに見てみたいので、また来るとしましょう。
なるほど、この近くにはナラタケがたくさん出るところがあります。ナラタケなくしてツチアケビなし。ナラタケはその菌糸束を伸ばして、広がっていきますが、ツチアケビはその菌糸束に取り付いて栄養を摂取する菌従属栄養植物です。生き物の連鎖と共生と逞しさを体現するかのような姿です。
雨後のタケノコならぬ、雨後のキクラゲ。食べ頃ですねえ。
キクラゲは乾燥品が売っていますが、生の状態のものを採ってきて乾燥させるのはなかなか難しいそうです。雨が降らなければ自然に乾燥し、雨が降れば戻る。うまくできています。
今年の梅雨入りは例年より遅れているようです。おかげで今日は、とびきりの富士山が日がな一日付き合ってくれました。梅雨に入れば、富士山が見えるのは稀で、今度見られる時には、すっかり青富士になっていることと思います。
新緑のカラマツ林から少しずつ見え始めた姿は美しい。今日は、レ点を打ったような鍵雲も富士山とともにいっそう美しい。
今日も下塚に登ってみました。上塚、宝永火口、富士山頂が3段重ねに見える下塚からの景色は雄大で、お気に入りのスポットです。
林床を埋め尽くすほど生えていて、身軽なおかげか、時には木によじ登っているものもあり。
あまりに繊細で、よくよく見ないと気づきません。小さな打ち上げ花火のような花柄。とても好きな花の一つです。
これまで気づかずにいました。アサノハカエデです。
端正な形、葉脈に沿って凹凸があり、そのシワの感じが麻の葉に似ていることから名付けられたようです。
この辺りは、カエデのオンパレードで、オオイタヤメイゲツ、ハウチワカエデ、イロハカエデ、イタヤカエデ等々、葉によるカエデ同定の勉強ができますね。
あちこちで見かけた、オオホウライタケ。落ち葉の降り積もったところに群生しています。
名前はお目出たい(蓬莱)のですが、食べられません。もっとも美味しそうにも見えません。
6月6日(木)八丁池
終日、どんよりとした雲に覆われた一日で、展望台に立てば、手が届きそうなほど立ち込めてきました。
八丁池はいっそう静かで、カエルの鳴き声と、時折魚の跳ねる音のみ。ホッとします。
ヒメシャラより一足早く咲くヒコサンヒメシャラもまだ、アマギツツジもまだまだの時期です。
この一帯には、タンナサワフタギの木がたくさん生えているのに、花を付ける木はなかなかありません。2本だけ、毎年花を付ける木は、今年も花盛りです。何か理由があるのでしょうか。
アワアワ、ふわふわとした優しい花です。
定点観察中。
花柄はまだ上がって来ていません。この一群は盛りの時を過ぎて、株もまばらになってきました。
繁殖力の強い植物ではなさそうなので、何とか生き延びてほしいと思います。
馴染みの大ブナ。樹上に小動物を見つけたら、あちらも私に気付いた様子。大慌てで木のウロに逃げ込んで顔を出していましたが、カメラを構える前に引っ込んでしまいました。しばらく出てくるのを待ちましたが、出て来ません。根負けしました。
キツネ色の被毛、顔の中心付近が黒く見えました。イタチでしょうか、テンでしょうか。 この大ブナはこんな動物やたくさんの他の植物が着生して、懐が深い。
花柄が伸びてきました。もう少しですね。また来るとしましょう。
小さな小さな数ミリの目立たない花ですが、よくよく見れば確かにムラサキ科の花です。
ナラタケが出てきました! 秋がピークですが、雨が降れば出てきますね。シーズンが楽しみです。
5月30日(木)二ツ塚
富士山の麓にやって来ました。大荒れの風雨が数日間続いた後の森の新緑は、いっそう美しい。
湿気が上がり、山頂付近は雲が行ったり来たりで、時折のぞく雪を残した夏近い姿も美しい。
御殿庭からはちょうど雲が切れて、宝永山と山頂が望めました。
二ツ塚に下って来るとまた雲が上がってきましたが、友人が二ツ塚はいつも通り過ぎるだけで、登ったことがないと言うので、下塚に登ってきました。
山頂でお昼を食べていると、にぎやかな声がしてきます。どうやら遠足のようです。せっかくここまで来たのに雲の中です。時折、雲が切れてシャッターチャンスがやって来ると、ひと際にぎやかに集まって記念撮影をしている様子。
何とも可愛らしい一軍で、見ているだけでこちらまで楽しくなる光景でした。
四辻から下ります。
今日のメインイベントはヤマシャクヤクでしたが、途中でお話ししたやはり植物好きの方によれば、すでに終わっているとのこと。
言葉どおり、ポツリポツリと散り際の花が残るのみで、毎年訪れる群生地はすっかり散っていました。やはり、一日二日遅かったこと、ちょうど満開の時期に風雨が強かったことによるのでしょう。
残念、残念。また来年です。
食べられるキノコではないものの、様々なキノコが出始めて、シーズンも近くなりました。
猛烈な悪臭で名高いキイロスッポンタケ。虫を引き寄せて、胞子を運んでもらうためです。あの手この手の工夫は面白い。
ニガクリタケにしては少し違和感あり。大きさもかなり大きく、師匠に聞いてみましたが、よくわかりませんでした。
絶滅危惧種、ヒメムヨウラン。菌従属栄養植物で、光合成をしません。名前の「ムヨウ」は「無葉」です。
葉を失くし、光合成を止めて、少し奇妙な姿。いかにも退化のように思われますが、実は進化なのかもしれません。
これだけでも生きていけるぞ、とでも言っているような。菌従属栄養植物を見る度に思うことですが、人間無駄が多すぎる。
ピンボケが残念です。
思いがけないところでバッタリ出会いました。そんなものですね。探していると見つからないものです。
蕾と思っていましたら、ギンランは半開しかせず、このまま終わるそうです。
5月22日(水)ぐるり西臼塚
西臼塚の駐車場から出発。すぐ近くを村山古道が通っているようなので、少し歩いてみることにしました。
林道を少し下って村山古道に合流。踏み跡は明瞭で、ところどころに手書きの案内があり、分かりやすい。
森の中の道をたどります。苔むした石と倒木に覆われた林床と新緑の天蓋、肺の中まで爽やかになるような。思わず、しばし、足を止めてしまいました。何と美しいこと!
程なく中宮八幡堂に到着。
すぐ近くに井戸端跡があるとのことだったので、行ってみたものの、沢筋に石積みの跡のようなところがありましたが、よくわかりませんでした。
炭焼きの跡は残っていて、往時の様子が偲ばれます。
近くには女人堂跡、六観音跡、西河原跡、と遺構があるとのことでしたが、こちらも見つけることができませんでした。
この道が廃れてすでに長い年月が経ち、人の営みも信ずるものも移ろったということでしょう。時の流れに思いを馳せるゆかしい古道でした。
今日はほんの少しだけでしたが、またこの続きを歩いてみたいと思います。
一旦富士山スカイラインを横切って、西臼塚に向かう林道に入り、植物観察をしながら麓をグルリとらせん状に回りながら登って、西臼塚にやって来ました。
前回来た時はまだ冬木立でしたが、新緑の今日とはずいぶんと印象が違います。
とても珍しい植物だそうな。牧野富太郎が発見して、日本で初めて新種登録したというので有名です。
「ヤマトグサ」と言うその命名に、誇らしさと喜びが表れているようです。
よく見ると、萼片が3つ。開くと後ろにクルリと反り返り、中からフワフワと風にそよぐ細い糸のようなものがたくさん出ていて、これが雄しべとのこと。
あまりに地味で目立ちませんが、一度見つけたら、そこら中にたくさん生えていました。出会えてうれしいヤマトグサでした。
標高1300m辺り、ポツリポツリとヤマシャクヤクの花が。この辺りではもうほとんど散っています。
初めて見た時は大感動しましたが、最近では珍しくなくなってしまいました。
たまにはズームしてみましょう。
初夏の花たちがあれこれ咲き出しました。
あの雲の中に富士山。今日は一日中山頂付近は雲に隠れたままでした。残念。
5月15日(水)新緑・八丁池
久しぶりの八丁池。とりどりの色合いの若葉が萌え出る一番美しい時です。カッコーの鳴き声が響き、すでに夏も間近かのようです。
八丁池辺りには、咲き残るトウゴクミツバツツジが水面に映えて、カエルの鳴き声と水底にはアカハライモリの影。
命が満ち溢れる季節です。
下り八丁池歩道にあるヤマグルマ。
その枝の又に根付いたアマギシャクナゲが、ちょうど満開でした。こんな所に!と思いますが、むしろ競争相手がいなくて、住めば都なのかもしれません。
昨日までかなり雨が降ったので、密かに期待していました。
そして、期待どおりのウスヒラタケを見つけました。私の好きなキノコのNO.1です。秋が最盛期ですが、ウスヒラタケは春から秋にかけて息の長いキノコです。
今年の初物。美味しく頂きました。
5月10日(金)明神ケ岳
小田原駅を通ると、大雄山線の乗換案内があり、最乗寺に行くためだけに作られたような路線、知ってはいたものの訪れるのは初めてです。
敷地は広大で、見事な杉林が延々と続き大雄山最乗寺に着きます。境内から出発します。
初めてのコースはいつもドキドキ、ワクワクします。
見晴しのない見晴小屋を過ぎ、神明水の湧き出す辺りまで登って来ると、杉林に落葉広葉樹も混じり始めて、眺望も少しずつ開けてきます。
今日目指すのは明神ケ岳。箱根外輪山の中でただ一つ、登っていない山です。
外輪山の稜線に向かって真っすぐ尾根を登って行くのですが、かなり密に谷が刻まれて水も豊かに湧き出しているようです。
外輪山の稜線まで登ってきました。
目の前が噴気をあげる大涌谷。そのすぐ麓まで、旅館やホテル、別荘地などが迫っています。箱根火山はれっきとした活火山です。このような風景は日本中至る所で見られ、日本人は大きな被害をもたらすことを重々承知の上で、豊かな自然の恵みをもたらしてもくれる隣人と寄り添って暮らしてきたのだと、つくづくと改めて思う眺めです。
今日は風もなくお天気は最高。富士山の手前に見えるこんもりした山塊が金時山。明神ケ岳から金時山、その先へと外輪山の稜線はぐるりと続いていきます。一番奥には愛鷹の山並み。
南側に目を移せば駿河灘、三浦半島から房総半島まで見えていました。立ち去りがたい飛び切りの眺めでした。
やはり箱根にはハコネシラカネソウ。
ツルシロカネソウととてもよく似ていますが、葉のしわ、花弁の尖り具合で見分けがつきます。
ちなみに花弁に見える白いところは萼、花弁は雄しべの先端のように見える小さな黄色いところです。
下りはもう一つ隣、最乗寺の奥之院に続く尾根を辿ります。
トウゴクミツバツツジは終盤を迎えて、花の絨毯を贅沢に歩きます。
かつては身近でよく見られたと聞きますが、今では珍しくなりました。
これは地エビネと言われるシックな色合いのエビネですが、黄エビネは軒並み盗掘されたようです。これほどの群生を見かけるのは珍しい。
天城では一つ見つければ大喜びですが、何と、カイワレ大根なみにたくさん双葉を広げていて、びっくりしました。
マツが優勢の杉やヒノキ、広葉樹の混じる樹下でした。
最乗寺まで戻ってきました。
30を超える堂塔、創建から600年ほど、伐採を禁じられてきた杉の樹齢は400年から600年だそうです。
杉を守り、杉に守られてきた寺叢です。天狗伝説が伝わり、大下駄を祀っています。いつか山の帰りにではなく、ゆっくりと訪ねて来たいと思います。
6月12日(水)二ツ塚