5月6日(木) 登り尾
天気予報では100%晴天だったのに。
登り始めた時は霧雨、いつまでたってもどんより森は靄の中です。 それはそれで美しいのですが。
友人に大ヤマグルマを案内したくて登リ尾の南西尾根を直登してきました。
周りにもモミの巨木や大ブナが林立しており、セミのようにくっ付いている友人を見れば大きさが分かりますが、モミの木もかなりの大木です。
それよりも数段大きな姿。
生きてきた歳月を物語るかのようなヤマグルマらしい複雑な根や枝ぶりです。
まさに森の主のようです。 これから先も長くこの森を守ってほしいものです。
無事、案内できて面目躍如。友人も満足の模様で私も再訪できて大満足です。
そこから少し上っていけば登リ尾の山頂です。 山頂近くはちょうど薄黄緑のベールがかかったような芽吹き始めたアブラチャンの美しい群落。
山から下りて登リ尾の全景を見てみれば何でもないような低山ですが、多くの巨木を抱えている豊かな森です。山は懐が深い。
エビネ: 園芸店の野草としても出回っていますが、かつては極々普通に身近にあったランだったようです。エビネに限ったことではありませんが盗掘によってほとんど自生のものは姿を消してしまってします。 私もこのところ2度続けてエビネに出会いましたが、滅多に出会えません。
エビネは比較的栽培が容易なようですが、ランの中には菌従属のものが多いので移植しても根付くことはなく、その結果自生地が消滅することになります。
こうした無知による盗掘が何とかならないものか。山と植物を愛する者の願いです。
ヤママユガ: 美しい翡翠色。オオミズアオかオナガミズアオか。只今友人と議論中。見分けはなかなか難しい。ヤママユガの一種でとりわけ美しい蛾です。
成虫になるともはや食べることはなく口は退化してしまっているそうです。子孫を残すためだけにこの美しい姿になる。 生き物は凄絶で美しい。
クジラ岩: と呼ばれている岩。私はそう見えるのですが、友人はカバだと言う。
4月26日(水)
空振りスミレ自習その2
もっと標高が上がればまだまだいろんなスミレが見られると思いますが、幕山の山頂付近に辛うじてニョイスミレが咲いているのみ。
残念、残念。
それでもこの季節の山の新緑は格別です。
やわやわとした色とりどりの緑の山は、内から湧き上がるような、見ている間にも葉先を広げる音が聞こえてきそうです。
青空に新芽のレース模様も美しい。
初夏を告げるウツギのリレーが始まっています。
まずはコゴメウツギの小さな花。ウツギと名が付くもののウツギの仲間ではなくバラ科です。
コゴメウツギの次に咲くのはマルバウツギ。一つ二つ咲き始めています。
マルバウツギが終わる頃にはウツギ、ツクバネウツギ、ハコネウツギと咲き継いでいきます。
幕山山頂からは穏やかな相模灘とナマコのような格好の真鶴半島。
帰路は沢沿いの道を下ります。湿ったところを好む植物たちにたくさん出会います。
ニリンソウ、ウワバミソウ、ヘビイチゴ。
ムカゴネコノメソウは花が終わり種を付け始める頃です。
ようやくその名前らしくネコの目の細長い瞳孔のような形になってきましたね。
ハルジオンは至る所で見かける花ですが、少し遅れて咲くヒメジョオンが咲き出して同時に見られるようになると、「どっちがどっち?」となる花です。見分け方はいろいろありますが、葉のつき方を見るのが一番確かなようです。
茎を抱くように付くのがハルジオンです。
ナルコユリもアマドコロと見分けに悩む花の一つ。特に花がまだ咲かない時期は難しい。
茎を触ってみてツルリと丸いのはナルコユリ、少し角があって手に引っかかるのがアマドコロ。
スミレ自習は空振りに終わりましたが、植物観察には空振りなしです。
4月22日(木)
孔ノ山探索
大室山のすぐ西側に矢筈山があります。
矢筈山には何度も登ったことがあり、私の山歩きの初めの一歩の山でもあります。
そのすぐお隣に矢筈山より小さく同じような岩山がありますが、それが孔ノ山です。
曲がりなりにも矢筈山には登山道があるものの、孔ノ山にはありません。
地形図を見ればその麓には池があり、まずはそこから行ってみることにしました。
真中には大きな岩山。その岩にこれまた大きな木が根を張っています。水はないものの窪地なので雨が降れば水が溜まるのでしょう。水が溜まれば島のようになるのでしょうね。 見てみたいものです。
あとで調べたところ鴨ケ小池というのだそうです。
噴火口ではないようですが、孔ノ山から押し寄せた溶岩が水際に見えています。
孔ノ山は溶岩ドームなので大室山のようになだらかではありません。ちょうどカップケーキを焼いた時、モコモコと盛り上がっててっぺんに割れ目ができたイメージでしょうか。どこからアクセスするにも岩だらけの急な崖です。
迷っても仕方ないので「行くよっ!」と友人と声をかけあって目の前から登り始めました。
ともかく岩だらけ。苔むした巨石。岩の割れ目から大きくなった樹々。
所々大岩に行く手を阻まれ、脇を巻きながら登っていきます。北側から登ったので途中富士山が見えました。
ミツバツツジも随分と咲いていて、束の間のご褒美です。
地形図を見れば頂上は広く平らなように思えますが、岩だらけのいくつもの小さなピークがあってどこが公式660mかよくわかりません。噴火口の上に立ったことは確かです。一応満足。
さらにもう一つの池も探索してみることに。 これもあとで調べたら孔ノ窪マールと判明。少々勉強不足でした。
学校の運動場ほどの広さ。
水はなく、ぬかるんで動物たちの足跡だらけです。こちらは正真正銘の噴火口です。
火山と言えば「山」と思うの常ですが、地中から上昇してきたマグマの近くに水があると、爆発的な水蒸気爆発が起こって火口付近が吹き飛ばされて窪地になったのがマールです。
水のたまったマールの代表は一碧湖です。
今日は久しぶりのジオ探索、とても面白かったです。
4月15日(木)
スミレ自習その1
春はスミレの季節です。
どこでも見かけ別に取り立てて不思議でも珍しくもない身近なスミレですが、これほど多種多様であることを知ったのはつい最近のことです。見れば見るほど同定が難しく、初心者はひたすらガイドブックとルーペの行ったり来たりです。
山の上は桜吹雪の最中、足元は花びらで埋まり行く春を惜しみながらの一日です。
タチツボスミレ: 一番数も多く至る所で見かけるおなじみのスミレです。
小さな花ながら群れ咲く様はなんて愛らしい。
ニョイスミレ:別名ツボスミレ。タチツボスミレがふんわり可愛らしい姿に比べると、小ぶりながらシャキッとした印象。
好きなスミレの一つです。
ヒメミヤマスミレ: フモトスミレとヒメミヤマスミレの違いの見分けはなかなか難しい。
葉と鋸歯の形、葉裏の色などからヒメミヤマスミレとしようと思うけれど、少々自信なし。杉林の薄暗い林縁で見かけたのもヒメミヤマスミレに軍配を挙げた理由の一つです。
フモトスミレ: 葉裏は紫を帯び、ヒメミヤマスミレと似てはいるもののフモトスミレとしました。
ナガハシスミレ: これは間違えません。花の終盤の時期で状態の良いものがなかなかありませんでしたが、天狗の鼻のように長い距が目印です。
マルバスミレ:丸っこい葉と純白の花。日向の斜面に群生していました。このスミレもわかりやすいものの一つです。
キランソウ: スミレではありませんが、こんなに大きな株は初めて見ました。
直径50㎝はあったでしょうか。
本日のスミレ観察はここまで。
花より団子。帰りの道すがらワラビの収穫にすっかり夢中になってしまいました。
家に戻って間髪入れずあく抜きし、晩にはおひたしにして美味しくいただきました。スミレ自習の副産物、悪くありません。
4月6日(火) 春浅き
先日初めて出会ったミツバコンロンソウをもう一度見たくて、友人にも見せたくて天城峠まで登ってきました。今日はたくさん咲いていました。
とはいえ小さな小さな目立たない花。普通は見逃してしまうでしょう。
ニリンソウも咲いていました。ここで見かけるのはやはり初めて。
ニリンソウの葉はトリカブトの葉によく似ているのでトリカブトと思っていたのかもしれません。
久しぶりに上り御幸歩道を登ってきました。 ここには天城一番の太さのヒメシャラがあります。
この太さになると100年は優に超えると思われます。もしかすると200年は越しているかもしれません。
ヤマシャクヤク: かなりの群落です。花が咲くのが楽しみです。
ヤマグルマ:根か枝か分からなくなったぐちゃぐちゃの隙間から立派なアマギシャクナゲも育っています。
ヤマグルマは本当に面白い植物です。もう一つのヤマグルマにはブナとマメザクラが同居していました。
ウマスギゴケ: ではないかと思われるコケ。
小さなコケの世界はまるで宇宙のようでもあります。
下界ではすっかり桜も散ったようですが、天城の森のブナやヒメシャラなどの高木の芽吹きはまだまだで、中間層のマメザクラやアブラチャンが花の見ごろを迎えています。
また来てみることにしましょう。
その頃には新芽が吹き始めていることでしょう。
4月2日(金)
函南原生林
3月の半ばからおよそ2週間。原生林の春も進んできました。
トウゴクサバノオの花が咲き始めました。1㎝にも満たない小さな花ですが楽しみに待っている花のひとつです。
ニリンソウも咲き始めましたね。トウゴクサバノオもニリンソウも同じキンポウゲ科の植物で、花弁に見えるのは実は萼です。
ニリンソウの萼は普通5枚が標準でしょうが、変異も多く今日も8枚のものを見つけました。 清楚で凛として、春らしい花です。
昨年もスミレの観察をしましたが、1年経つとすっかり頭の中から雲散霧消。 新たな気持ちで観察のし直しです。
今日はエイザンスミレとナガバノスミレサイシンが花の盛りの時期を迎えていました。
まだ少し早いかなと思っていたマルバスミレやコミヤマスミレ、シコクスミレ、ヒメミヤマスミレも咲き始めていて、スミレ図鑑と首っ引きで何とか同定できたと思います。
何事についても何度も繰り返し繰り返し数多くを観察することが頭に定着する唯一の近道のようです。
それにしてもスミレは奥深い。
ネコノメソウの仲間たちは花の終盤を迎えて、種ができ始める頃になっています。
コチャルメルソウは相変わらず盛んにパラボラアンテナを立てて花盛りです。
天城の森は美しい森ですが、鹿が食べてしまって、林床には一本の新芽も草もないところ多くなっています。
一方、函南原生林の林床は実に豊か、いつまでも豊かであってほしいと思います。
今日は一日植物観察を満喫しました。
3月31日(水) 伊東アルプス
今年もやってきました。
いつもなら4月の上旬が見頃ですが、今年の春は早く今日はもう桜吹雪の中です。
毎年鹿路庭峠の方から歩いていましたが、今日は反対側、奥野ダムから歩き始めました。
松川湖分岐まで来ると桜の尾根が始まります。昨日からの黄砂で空も景色も白く霞んでいて、真っ白なオオシマザクラも溶け込んでしまっています。
間の山まで登って来て一息。ここからはうねうねと蛇行しながら矢筈山の足元まで続く真っ白なオオシマザクラの尾根道が一望できます。
ここからあの白い道を歩いていきます。
いつ誰がこの尾根に桜を植えたのか分かりませんが、少なくとも50年、60年、いえいえ70年100年を超えるのではないかと思われる大木も数多くあります。
ただただ見事です。
長い年月、尾根道は両側に崩れてずいぶんと細尾根になり、血管のような根がむき出しになったところも多く、土砂もろとも崩れ落ちてしまっているところもあります。
まるで鋸の歯のような小さなアップダウンの続くこの尾根は、とりわけ下りは厳しいので、毎年今年が最後かも...と思います。
終点の鹿路庭峠が近づいてきて、ようやく地面の小さな花たちに目が向けられるようになりました。
今年も何とか歩き通せました。
3月26日(金) 地図読み練習
暑くも寒くもなく、花は咲き始め陽も長くなり、久しぶりに地図読み練習に出かけてきました。
水生地下から旧天城隧道、天城峠に登る道も久しぶりです。沢筋の道にはそんなところを好む花たちがそこかしこに。
初めて見るのはミツバコンロンソウ。
戻ってから随分と調べました。
葉の形からすればトウゴクサバノオなどのキンポウゲ科に似ています。 キンポウゲ科の花の花弁に見えるのは実は萼ですが、この花には花弁とは別に立派な萼があります。
決め手は花弁が4枚。これはアブラナ科の典型でもあります。
さらにブナ帯の林床に生育すること。 初めて出会えた花は何とも愛おしい。
ネコノメソウの仲間たち。
コケも美しい。練習に入る前に随分と足を止められてしまいました。
天城峠から達磨山へと続く伊豆山稜線歩道の南側の尾根をたどって、まずは898mピークまで行きます。
古びた古峠の標柱があり旧古峠でしょうか。
歩道の方にも古峠がありますが、この尾根にはマメザクラの古木がたくさんあり、ようやく一つ二つ咲き始めたところです。
間違いなく941.8mピークの古峯を通り、898mピークまでやってきました。
大ブナの居並ぶ尾根の方向は二本杉峠に下る尾根です。
今回は南西方向に伸びる初めての尾根をたどって河津七滝の大滝まで下る予定です。
尾根道をしばらく進むと、地図上では古い歩道と交差するところにお地蔵様がおられました。
今では誰も通らない廃道のようですが、かつてこの山奥を行き来した人たちがいて、道中の安全を願って祀られたのでしょう。
何か人智の及ばないものに願いを掛けることは今の私たちの生活にはほとんど失われてしまったように感じますが、現在のコロナ禍の惨状を見ると、人智の及ばないことだらけのような気もします。
人間はあまりに不遜になったのかもしれません。
ふとそんなことを思って手を合わせましたが、目下の目的は尾根をきちんとたどること。
そうしないと帰れません。
地図とコンパスとスマホのGPSロガーを頼りにどんどん下っていきますが、やはり初めての道は心細いもの。誰かの付けた目印の赤テープにはホッとします。
ズルズルの垂直な崖が一か所。
尾根沿いに地図にはない新しい林道ができていて戸惑ったこと。
到着地近くの尾根に行く手を阻む大岩。 難所はこれくらいで無事大滝に到着しました。
頭も目も足も、使えるものは総動員する地図読み練習は、ふやけた脳みそに喝が入ります。
3月15日(月) 函南原生林
わが家のオオシマザクラも今日明日には咲き出しそうです。
いつもは4月に入ってからですので今年の春は早いようです。
とはいえ函南原生林はまだまだ。 林床は落ち葉に覆われています。 しかし、そんなモノトーンの地面だからこそ、いち早く咲き始めた小さな小さな花たちはよく目立ちます。
コチャルメルソウ: つくづく面白い形をしています。
落ち葉の色に紛れるような色合いですが、大好きな私は見逃しません。
どうしたらこんな奇妙な形になるのやら。
写真には撮りにくい花ナンバーワンですが今日は何とか成功したでしょうか。
ムカゴネコノメソウ: 数年前、一度出会って以来です。思っている以上に早い時期に咲き始めるのではないかと思い、3月中に見に来て正解。
小さな目立たない花ながら大群落を作っていました。透き通るような薄黄色の花は蝋細工のようでなんとも美しいです。
ハナネコノメソウもたくさん咲いていましたし、まだ蕾の状態ですので花が咲いてみないとはっきりしませんが、多分ヨゴレネコノメソウと思われるものも見かけました。
バイケイソウとハシリドコロ: やっと芽を出したところ。 どちらも有毒。
バイケイソウはギボウシの新芽と間違えられて中毒を起こす事故がよくあるようです。
なるほどおいしそうな新芽です。
ハシリドコロも三大毒草のひとつですが、このくらいの大きさだとイタドリと似ているようにも思います。
春の主役のひとつは何といってもスミレでしょうが、まだまだ、やっと一輪咲き始めを見つけました。
それでも日当たりの良い斜面にはセントウソウやヤマルリソウやジロボウエンゴサクが咲いていました。
フデリンドウやツルリンドウも蕾を付けてきましたね。
コケの仲間も冬の乾燥から抜けて、ようやく潤いを取り戻してきました。
春は麗し。一つ一つ小さな花を見つけていくのは何と楽しいこと。 今日も一周4㎞を3時間。
歩くというより、止まり止まり、時々歩くというのが正しいようです。
また来週も来てみましょう。